退職金請求の基礎知識!会社に退職金の支払い義務が生じるケースとは

会社を辞めるときに退職金がもらえるかどうか、もらえるとすればその金額はいくらなのか、という点は、毎月の給与などより金額が大きいことが通常なだけに、労働者にとっては大きな関心事のひとつでしょう。

退職金の有無や金額の大小によって、会社を辞めるか辞めないかの決断自体が変わってくるようなケースも少なくないところです。

また、意図せず会社を辞めざるを得ないような状況になってしまった場合には、次のステージに進むための資金を確保しておくためにも、少しでも多くの退職金をもらっておきたいところでしょう。

今回は、もらえるはずの退職金をもらいそびれるようなことがないよう、退職金に関する基本的な知識を押さえておきましょう。

退職金制度とは?

退職金とは、会社を退職するときに、会社から退職者に支払われるお金のことをいいます。

国家公務員などの場合は、国家公務員退職手当法という法律によって、条件に該当する人への支払いが義務付けられています。

一方で、民間企業の場合は、各企業でその規定を定めた場合に支払われるものとなります。
したがって、もしその会社に退職金制度がなかったとしても、そのこと自体では違法とはなりません。

東京都産業労働局が行った中小企業の賃金・退職金事情調査(令和2年版)によると、東京都内にある従業員10~299人の中小企業のうち、65.9%の企業が、退職金制度があると回答しています。

参考:中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版) 7 退職金制度(1)退職金制度の有無(集計表 第7表-①)|東京都産業労働局

ここでは、支払い義務のない民間企業の退職金請求について解説をしていきます。

退職金制度の種類

退職金制度には、以下のようにさまざまな種類があります。

  • 退職一時金制度:退職金規定で定められた金額が一括で支払われるもの
  • 退職金共済制度:共済の運営者が退職金を一時金として支払うもの
  • 退職金前払い制度:退職金相当額を毎年の給与や賞与に上乗せするもの
  • 中小企業退職金共済:自社単独で退職金制度を作れない中小企業向けの仕組み

したがって、未払いの退職金を請求するときには、後で述べる条件のほかに、会社の退職金制度の仕組みを確認した上で、その仕組みに合った対応を選ぶ必要があります。

会社に退職金の支払い義務が生じる2つのケース

会社に退職金を請求する場合には、同僚や先輩から聞いた「この会社にも退職金制度があるらしい」などの漠然とした話だけではなく、きちんとした根拠に基づいた請求をしなければなりません。

一般的には、以下のいずれかに該当するときに、その会社には退職金を支払う義務があると考えられています。

(1)就業規則などに明記されているケース

最も確実性が高いのは、就業規則に退職金に関する規定が置かれていたり、雇用契約書や労働契約書に退職金に関する取り決めがきちんと書かれていたりするようなケースです。

退職金制度を設ける多くの企業は、就業規則のなかで、退職金の支給条件や金額の計算方法などの規定を明記しています。

(2)慣例的に支給されているケース

就業規則や労働契約書に記載がなくても、毎年ほぼ全員に退職金が支払われる慣例があった場合に、「今年だけ・自分だけ支給されない」といったような状況があれば、退職金を請求できる可能性があります。

ただし、この場合は、過去の退職金支払いの状況を証明できる証拠が必要となってきます。

また、応募時の求人票や入社案内のパンフレットに、「退職金支給実績あり」や「退職金も支給します」といった記載があれば、会社に退職金の支払い義務がある旨を主張する際の証拠の一つになり得るでしょう。

さらに、慣例はなくとも、当事者の個別的な合意が明確にあれば、退職金請求権が発生する場合もあります。

一般的な退職金請求の流れと方法

労働者が会社を辞める場合には、以下のような流れで退職金請求や支払いまでの手続きが進められていきます。

(1)会社都合退職の場合

会社都合や、就業規則で定められた定年を理由に退職する場合は、労働者側から請求をしなくても、退職金が支払われるのが一般的です。

ただし、退職金共済制度のように外部の運用機関から支払われる場合は、退職金請求書などの書類の作成・提出が求められることもあります。

(2)自己都合退職の場合

円満な自己都合退職の場合には、会社都合退職と同様の流れで手続きが進められます。

一方で、就業規則で定められた会社側への退職予告がなかったり、欠勤を繰り返した上での退職をしたりしたような場合には、会社側とのやり取りができないため、退職金もスムーズに支払われないようなことがあります。

この場合には、書面を送付するなどの方法で退職金の支払いを求める必要があります。

(3)懲戒解雇の場合

懲戒解雇とは、労働者の犯罪行為や長期の無断欠勤といった、労働者側に原因がある問題が懲戒事由に該当したときに行われる解雇のことをいいます。

懲戒解雇の場合、大きな問題へのペナルティ的な側面が大きいことから、就業規則のなかで「懲戒解雇の場合には退職金を支払わない」と明記している可能性もあります。

そのため、懲戒解雇で会社を辞めざるを得なくなった場合は、就業規則の確認が必要となってきます。

懲戒解雇の場合は退職金がもらえないという印象を持っている人も多いかもしれませんが、裁判例においては、懲戒解雇が有効であっても、退職金の全額を不支給とするためには「当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である」と高いハードルを要求しているものがあります。
その会社の退職金が持つ性格にもよりますが、懲戒解雇イコール退職金ゼロというわけではないのです。

このように、懲戒解雇でも退職金が支払われる場合はありますので、その場合には、会社都合もしくは自己都合退職と同じ流れで請求手続きを進めていくことになります。

懲戒解雇の場合でも退職金を請求できるかどうかは、専門家に相談するとよいでしょう。

退職金が支払われない場合に確認すべき3つのこと

一般的な方法で請求した退職金が支払われない場合には、弁護士などの専門家に相談して、違う手段で請求を行っていくことになります。

ただし、ここで注意すべきなのは、退職金制度が法律で定められた制度ではないことです。

したがって、会社側からなかなか退職金が支払われない状況が続く場合は、まず以下で示す3つのポイントを確認しながら、「自分は退職金をもらえる対象なのか?」ということを考える必要があります。

(1)退職金請求の条件を満たさない

退職金請求が無効となるケースで多いのが、そもそも退職金をもらえる条件を満たしていないというものです。

一般企業の退職金規定には、支給要件として以下の項目が並ぶことが多いです。

  • 勤続年数
  • 年齢
  • 地位、等級、役職
  • 雇用形態 など

このなかで特に注意すべきなのは、勤続年数や年齢などの数字に関係する項目です。

例えば、年度の途中に入った中途採用の労働者の場合、4月入社の新卒社員と比べて起算日などが変わってくることがあります。

そのため、自己都合で会社を辞めるときに退職金をもらいたい場合は、勤続10年などのざっくりとした数字ではなく、自分は何月何日に条件をクリアできるのかを確認しておく必要があります。

(2)退職金の支払時期がきていない

退職金の支払時期も、それぞれの企業や外部の運用機関によって異なります。

あらかじめ就業規則等で支払時期を定めている場合は、それによることになります。
そのため、退職金を請求するときには、「いつ振り込まれるルールになっているか?」という点についての確認も必要です。

なお、労働基準法では、退職金の支払時期について特段の定めがない場合は、退職金について、退職した労働者が請求をしてから(争いがある場合は異議のない部分を、争いがない場合は全額を)7日以内に支払うことを義務付けています(※加えた括弧書きは、労働基準法第23条2項参照)。
就業規則のなかで退職金の支払時期が定められていない場合は、このルールに従うのが一般的です。

(3)退職金請求の時効期間が過ぎてしまった

労働基準法第115条では、退職金請求権の時効期間を5年と定めています。

したがって、会社を辞めてから5年以上が過ぎた頃になって、退職金がもらえていないことに気付いたとしても、もう請求はできないと捉えるべきでしょう。

また、未払い残業代などの賃金請求については、2年が時効となっています。

そのため、会社を辞めたときの給与や残業代、退職金といった未払いのお金をすべて請求したい場合は、2年という時効期間を意識しながら、早めに対応を考える必要があります。

この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

引用:労働基準法第115条

【まとめ】退職金請求については弁護士にご相談ください

退職金制度は、各企業が任意に設ける制度です。
したがって、勤めていた会社を辞めたからといって必ず退職金がもらえるとは限りません。

また、退職金にはさまざまな種類があることもあって、「自分は退職金を請求できる対象者なのか?」という点の確認が、一般の労働者にとっては難しいという一面もあります。
会社から支払われない退職金請求についてお悩みの方は、弁護士への相談もご検討ください。

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この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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